祝婚歌

ライン

    『 祝婚歌 』  吉野 弘

    二人が睦まじくいるためには
    愚かでいるほうがいい
    立派すぎないほうがいい
    立派すぎることは
    長持ちしないことだと気付いているほうがいい

    完璧をめざさないほうがいい
    完璧なんて不自然なことだと
    うそぶいているほうがいい

    二人のうちどちらかが
    ふざけているほうがいい
    ずっこけているほうがいい

    互いに非難することがあっても
    非難できる資格が自分にあったかどうか
    あとで
    疑わしくなるほうがいい

    正しいことを言うときは
    少しひかえめにするほうがいい
    正しいことを言うときは
    相手を傷つけやすいものだと
    気付いているほうがいい

    立派でありたいとか
    正しくありたいとかいう
    無理な緊張には
    色目を使わず
    ゆったり ゆたかに
    光を浴びているほうがいい

    健康で 風に吹かれながら
    生きていることのなつかしさに
    ふと 胸が熱くなる
    そんな日があってもいい
    そして
    なぜ胸が熱くなるのか
    黙っていても
    二人にはわかるのであってほしい

       『贈る歌』(吉野 弘著,花神社)より「祝婚歌」全文を転載.


[解 説]
詩人吉野弘(よしのひろし). 1926年(大正15年)山形県酒田市生まれ.
この詩は,どうしても都合がつかずに出席できなかった姪御さんの結婚式に贈られた,全くプライベートなも のだったのだそうです.

そして,そのままの形で詩集に入れられ出版されます. その後も,結婚式のスピーチ で使われたり,著名人が朗読をしたりで反響が広がり,個人ホームページで紹介している方も多数見られます.

僕は,結婚前,1998年頃のテレビで片岡鶴太郎が朗読しているのを見て,いいなと思い,すぐに本屋で探 したのではなかったかと記憶しています.

[著作権について]
早坂茂三(故田中角栄の秘書を23年間努め現在政治評論家として活動)がホスト役となったテレビ朝日の トーク番組「茂三の渡る世間の裏話」をもとにした『人生の達人たちに学ぶ〜渡る世間の裏話』(早坂茂三著, 東洋経済新報社,1997年10月3日第1刷発行)という本に収められた吉野弘との対談の中にこんな会話が あります.

早坂 吉野さんは「祝婚歌」を「民謡みたいなものだ」とおっしゃっているように聞いたんですけど, それはどういう意味ですか.

吉野 民謡というのは,作詞者とか,作曲者がわからなくとも,歌が面白ければ歌ってくれるわけです。 だから,私の作者の名前がなくとも,作品を喜んでくれるという意味で、 私は知らない間に民謡を一つ書いちゃったなと,そういう感覚なんです.

早坂 いいお話ですね. 「祝婚歌」は結婚式場とか,いろんなところからパンフレットに使いたいとか、 随分,言って来るでしょう. ただ,版権や著作権がどうなっているのか、 そういうときは何とお答えになるんですか.

吉野 そのときに民謡の説を持ち出すわけです. 民謡というのは,著作権料がいりませんよ。 作者が不明ですからね.こうやって聞いてくださる方は、 非常に良心的に聞いてくださるわけですね. だから,そういう著作権料というのは心配はまったく要りませんから....
どうぞ自由にお使いください.
そういうふうに答えることにしています.






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